流域水管理 河川・水資源

豊かな生活のため、洪水災害から守るための防御、減災対策、安定した水資源の提供、人々の憩いの場となる良質な河川環境の創生など、地域の方々が求めている河川のあり方の実現を目指して、国内外で総合的な技術サービスを提供しています。

国内では河川整備計画や河川管理計画の策定、河川構造物の計画・設計、耐震性能照査など、河川整備事業に関わるすべての分野に対応しています。海外では、水資源開発マスタープランや実施プログラムの策定、水害から人命・財産を守るために必要となるダム、上水道や灌漑などの施設整備の計画策定・設計・施工監理などを行っています。また、近年は気候変動に関わる検討や河川施設の運用面を含めた効果的な活用方法等の先端技術の提供にも力を入れています。アセットマネジメントの領域では、まちや地域の"生命線"を守るため、維持管理の状態を点検し、対策の計画・設計を行い、新技術を実装してパフォーマンスの向上を支援します。

主な技術サービス

明治時代に全国で始まった本格的な河川整備は100年以上が経過しています。この間、洪水被害を受けては計画を改訂し、改修を繰り返すことで洪水に対する安全性を高めてきました。しかし、現在は気候変動が進行する真っ只中にあり、洪水に対する河川の安全性が低下しつつあります。このため、これからは気候変動予測に基づいた分析に基づいて河川整備計画を立案し、従来培ってきた安全性をさらに向上させていくことが求められています。

一方、これからの洪水対応は、地域と一丸となって総力戦で挑む「流域治水」の思想に基づいて取り組みを進めることへの政策転換が行われています。その実現のためには、河川に洪水が流入する前に、“流域”で洪水を貯める田んぼダムや、調整池等の活用のほか、居住制限などの対策も含めて対策を検討していくこととなっています。

これからの治水対策は、河川・流域・氾濫域がそれぞれの立場で取組を考え、実行していく新たなステージを迎えています。

河道は洪水を安全に流下させる空間であるため、河道内における過剰な土砂堆積や、過剰な樹木の繁茂、堤防の決壊につながる洗掘や侵食を監視しながら、適切なメンテナンスを行う必要があります。

一方、河道は河川工事や施設建設などの人為的インパクトのほか、洪水によるインパクトを受けています。これらのインパクトは、短期的な影響で済む場合もありますが、20年、30年と長期にわたって影響を及ぼす場合もあります。その影響は“河川環境の悪化”として現れることが多いですが、本質的な原因は、上流からの土砂動態の変化、澪筋の固定化、砂州の固定化、動物や昆虫等の餌となる植物の減少など様々で、それらが複合的に絡み合う場合もあります。

このように河道管理は、河道変化の要因分析を行いながら、治水・利水・環境の各要素がバランスよく共存していくための総合的な判断が必要になります。

洪水の激甚化傾向はとどまることを知らず、毎年のように人的被害も発生しています。これらの被害を最小化するためには、普段の河川整備のみならず、地域の方々の避難を促すための、適切な予測情報も必要となります。その一つとして洪水浸水想定区域図がありますが、その解析には、精度の高い氾濫解析技術が求められます。これらはハザードマップとして、地域住民にも情報提供されています。

一方、洪水発生時はリアルタイム情報だけでなく、精度の高い予測情報(住民避難の判断に資する河川水位予測情報や、ダム管理者向けの流入量・放流量の予測情報)が求められます。これらの予測システムの構築においては、AIなどの先端技術を活用した取り組みを行っています。また、精度のよい予測が実現できても、予測情報には“不確実性”がつきものです。このため、「それらの不確実性をどのように評価して、実際の行動や判断に結び付けていくか」といった情報提供のあり方も考えていく必要があります。

また、これら当社が持つ、解析・予測技術を用いたリスク情報と防災に関連する多種多様な情報を、自治体や民間企業にワンストップで提供する防災プラットフォーム「防すけ」を開発し、地域の現状や浸水等のリスク情報を融合させ、災害・防災対応を行うために必要な情報を提供するためのサービスや、データビジネスも開始しています。

都市化により、アスファルトやコンクリートで覆われた地⾯が増え、洪⽔流出量の増⼤や地下⽔涵養量の減少などが問題となっています。地下⽔涵養量の減少は、湧⽔の涸渇や河川の低⽔時流量の減少を引き起こし、更に家庭排⽔等の流⼊も加わり、河川の⽔質悪化をもたらしています。また、地球温暖化によって、将来の⾬の降り⽅も変わっていくことが予測されています。こうした都市化した流域の⽔循環システムを健全化させるため、さまざまな取り組みが⾏われています。

⽇本⼯営では、流域の⽔と物質の循環系を再現・評価する「分布物理型⽔循環モデル」を開発しており、各種対策の効果検討などを⾏いながら、健全な⽔循環系の構築に向けた基本計画の策定をサポートしています。⽔循環モデルでは、⽔循環系改善対策を実施した場合の河川の流量や⽔質を定量的に評価することができます。また、気候変動によって、流域の⽔の流れがどのように変わっていくのかを予測できます。

海外では、国内で培われた治水分野の技術を活用し、激甚化した災害に対する治水計画の策定等適応策の提案や、低炭素社会形成のため環境に配慮した水力の拡充などの緩和策の提案に取り組んでいます。

治⽔や利⽔を担う河川構造物(堤防、堰、樋⾨および排⽔機場等)は、兵庫県南部地震や東日本大震災を契機とし、耐震点検、耐震対策が進められてきましたが、発⽣が懸念される南海トラフ地震や首都直下地震等の⼤規模地震に対し、未だ多くの河川構造物の耐震性能不⾜が指摘されるとともに、⽼朽化が進⾏しています。

こうした背景のもと、当社では、対象構造物の設置位置で、将来にわたって考えられる最⼤級の強さを持つ地震動(レベル2地震動)に対する耐震性能照査や耐震設計に併せて長寿命化対策を提案しています。

また、昨今の線状降水帯等に起因した異常降雨により、河道内での治水対策のみならず、流域全体で治水施策を講じる「流域治水」が推進されています。それに伴い、越水しても破堤までに要する時間を引き延ばし、避難時間を確保するための「粘り強い河川堤防」や洪水を一次的に貯留し、洪水ピーク流量をカットする遊水地や二線堤等、河川管理者のみならず流域内の関係機関と連携した施設整備が進められており、「溢れることもあり得る」という前提に立った治水施策の推進に取り組んでいます。

わが国の社会資本整備は、少子高齢化と人口減、環境問題と再生エネルギーの活用など、厳しい財政事情の中で、転換点を迎えています。特にダム事業は、効率的なダムサイトの減少や自然環境の保全により、新規のダム建設に対しより慎重に判断していくことが求められてきております。しかしながら、ダムは治水・利水の両面で、これまで国土形成の基礎や国民生活の基盤としてその機能を発揮してきました。さらに、今後も時間的・空間的にさまざまなスケールで生じてきている気候変動に対応するため、また再生可能エネルギーである水力発電の効率的運用のためにも、貴重な社会資本ストックである既設ダムの効率的な利用が重要視されています。

既設ダムの再生には、現施設能力を最大限発揮させるためのダム運用の高度化を図る方法がある一方で、既設ダムを嵩上げし新たな貯水容量を創出する方法や放流設備の新設・改良を通し、従前のダムの機能を向上させる方法などがあります。また、ダム湖に堆積した土砂の対策や水質の改善を目的とした施設の改良もダム機能のリフレッシュとして進められています。

ダムの再生工事は、既設ダムを運用しながら工事を進めて行くことから、計画の立案から設計・施工において、新設ダムの建設に比べて高度な技術力が求められます。

当社は、海外を含め多くのダム再生の実績とノウハウを保有しており、それぞれのダム固有の課題を踏まえ、既設ダムの再編による有効活用なども含め、計画から設計・施工計画に対して幅広くダム再生に取り組んでいます。

水力発電は、脱炭素化にマッチし地球環境への負荷が低減でき、比較的安定して供給できる再生可能な自然エネルギーです。原子力発電の安全性への懸念や火力発電の化石燃料価格高騰リスクなどから、水力発電への期待が膨らんでいます。

国内では、既存施設(ダム、堰、水路)、農業用水路における未利用落差や既設の砂防堰堤を利用した中小水力発電、既設ダム再生においてハイブリッドダム利用による供給電力の増強などが期待されています。

海外では、水力の調整能力を活かした電力品質の向上、地産地消を目指した中小水力発電から主要な電源構成としての大規模水力発電まで、電力の安定供給に大きく貢献しています。

当社では、こうした水力発電事業の計画、設計から運用、維持管理までのノウハウを有しており、今後の日本と世界のエネルギー問題の解決に取り組んでいます。

アセットマネジメントとは、まさに、まちや地域の"心臓部"や"命の源"を守るドクターやガーディアンのような仕事と言えます。河川や水資源開発施設は、私たちの生活を支え、生態系を維持し、エネルギーを供給するなど、様々な重要な役割を果たしています。しかしそれらは常に健康な状態であるとは限りません。時には老朽化や自然災害により危機に立たされることもあります。アセットマネジメントの役割は、そういった施設の"体調"をチェックし、必要に応じて手当てを行い、最善の状態を保つことです。そして、それはただ単に維持するだけではなく、新たなテクノロジーやイノベーションを駆使して、さらなるパフォーマンス向上や効率化を図ることを含んでいます。つまり、私たちは、"まちや地域の生命線をデザインするエンジニア"と言えます。問題解決にあたっては「点検(ドクター)」「モニタリング(ディテクティブ)」「診断(ポリクリニク)」「計画、設計(アーキテクト)」「マネジメント(コーチ)」といった各ステップにおいて多様な役割を担います。その各役割で、専門性を発揮し、経験と創造力を駆使して、まちや地域の安全と繁栄を支えるとともに、未来を想像し、新たな可能性を追求するために、私たちは絶えず新しい挑戦を続けています。

主な事業実績

国名 日本
発注者 国土交通省
プロジェクト名 荒川第二・三調節池整備事業
発注者名・資金源 関東地方整備局 荒川調節池工事事務所
実施期間 2018-2023(日本工営従事期間)
プロジェクト内容と裨益効果

埼玉県・東京都を貫流する一級河川荒川は、流域内に日本の人口の約1割が集中しており、特に埼玉県南部及び東京都区間は人口・資産が集積しています。さらに下流域沿川はゼロメートル地帯が広範囲に広がっており、ひとたび氾濫すると被害は甚大です。このため、荒川中流部の幅広な高水敷に荒川調節池群(荒川第二・三調節池)を整備することで洪水時の河道流量を低減し、広範囲において治水安全度の向上を図ります。現在、産官学が一体となり令和12年度完成を目指しています。

日本工営は、荒川第二・三調節池施設に関する調査・設計・維持管理検討、BIM/CIM活用による企画(広報)等で貢献しています。

諸元 調節池面積:約760ha(第二:約460ha、第三:約300ha)
治水容量:約5,100万㎥(第二:約3,800㎥、第三:約1,300万㎥)
日本工営の業務 調査・設計・維持管理・企画
図 BIM/CIMモデルを活用した事業紹介動画(越流堤・排水門紹介)
国名 日本
発注者 国土交通省
プロジェクト名 鶴田ダム再開発事業
発注者名 国土交通省九州地方整備局川内川河川事務所
実施期間 2008-2017
プロジェクト内容と裨益効果 鶴⽥ダム再開発事業は、川内川の洪⽔被害軽減のため既設ダムの洪⽔調節容量を最⼤75,000千㎥から最⼤98,000千㎥(約1.3倍)に増量するものです。既設堤体に3本の洪⽔調節⽤放流管増設と2本の発電⽤導⽔管を付替え、併せて下流減勢⼯部の改造・増設等を⾏うことにより、治⽔機能を強化します。
諸元
  • 内径4.8mの放流管を新たに3条増設
  • 日本最大規模の設計水深(約65m)での堤体削孔(ダムの堤体穴あけ)
  • 増設放流管から流れる流水のための増設減勢工(約200m)
日本工営の業務 設計・施工計画
国名 日本
発注者 国土交通省
プロジェクト名 R3-4高崎出張所管内河川管理施設等維持監理業務
発注者名 関東地方整備局高崎河川国道事務所
実施期間 2021-2023
プロジェクト内容と裨益効果 烏川・神流川河川維持管理計画に基づき、高崎出張所管内の河川維持管理を適切かつ適正に遂行することを目的とし、河川空間や河川管理施設、河道の状態把握、変状等の分析評価、対策工・優先順位の検討を行いました。本プロジェクトでは、地元企業とのJV体制を構築し、常駐の専任技術者を配置して管理職員の職務を代行しました。ドローンやウェアラブルデバイス等を活用した日常巡視や定期点検から、3Dモデルによる維持管理情報の分析・評価、監理・検討、マネジメントレポート作成まで、包括的に実施する河川管理体系を整備しました。
諸元 烏川、神流川、鏑川、碓氷川の管理区間および下久保ダム、奈良俣ダム、矢木沢ダムのダム管理区間を対象
日本工営の業務 巡視・点検業務、監理・検討業務
国名 ラオス
発注者 相手国政府
プロジェクト名 ナムグム第一水力発電所拡張事業
発注者名・資金源 EDL(ラオス電力発電公社)、円借款
実施期間 2014-2023
プロジェクト内容と裨益効果 ラオスでは豊富な水資源を利用し、電力供給の大部分は水力発電で賄われています。近年の経済成長に伴い国内の電力需要が急増しており、ラオスの国内需要向けの電源開発が喫緊の課題となっています。本プロジェクトは、巨大な貯水池を有し年間を通して流入量が安定している首都近郊のナムグム第一水力発電所の発電ユニット1基の増設し発電量を4万kW増やす再開発工事として実施されました。これにより、同国の安定的、持続的かつ効率的な電力供給の拡大に寄与します。
諸元
  • 堤体削孔(ダムの堤体穴あけ)により、内径5.5mの放流管を新たに1条増設
  • 既設の発電所を拡張し、4万kWのフランシス水車と発電機を設置。発電容量は15.5万kWから19.5万kWに増強された。
  • 水車発電機の増設により、放水庭も増設された。
日本工営の業務 設計・施工監理・政府職員への技術移転
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