大地震からインフラを守る『フロートレス工法』

日本工営グループは1946年の創業以来、人々の生活と密接に関わる社会インフラの整備に携わってきました。今回は日本工営が長年にわたって培った知見と技術を注ぎ込んだプロジェクトのなかから、大規模な地震災害から被災地を守り、迅速な復旧に寄与する『フロートレス工法』を紹介いたします。

地震でマンホールが浮き上がる!?

液状化で地上に突き出したマンホール

皆さんが日常でもよく目にするマンホールは、地上から下水道や電力、通信用ケーブルなどが通っている管路に入るために設けられた縦型の出入り口です。そのマンホールが、大きな地震によって地上に現れることがあるのをご存知でしょうか。マンホールの浮き上がり現象は、地盤の液状化が引き起こすものです。水を多く含んだ地盤が強い揺れにさらされると、地中の砂粒子が水に浮いた状態になり、水圧を高め、マンホールを押し上げてしまうのです。近年でも2004年の新潟県中越地震や2011年の東日本大震災、2016年に発生した熊本地震でも液状化現象が観測されましたから、ニュース映像などで目にされた方も多いのではないでしょうか。液状化が起こると下水道が寸断されるだけでなく、地上に突き出たマンホールにより、車両の通行が阻害されるなど、被災地の救援活動や復興にも大きな影響を与えます。マンホールの地上への突出を防ぐ技術の確立は、長らく防災上の大きな課題となっていました。

画期的なアイデアをカタチにするために

「地震で地盤の水圧が上昇し、マンホールが浮き上がるのであれば、水圧をマンホール内に逃がしてやればいい」。そんな発想から編み出されたのが『フロートレス工法』(非開削マンホール浮上抑制工法)です。具体的には、マンホールの内側から壁に穴を開け、消散弁と呼ばれる装置を設置。地震によって地中の水圧が上昇すると消散弁に仕込まれた受圧板が外れ、マンホールの内側に過剰な地下水を流すことによって、過剰間隙水圧を消散しマンホールの浮上を抑制する仕組みです。
『フロートレス工法』は、既設のマンホールのメンテナンス時に簡単に施工できるため、工事費用も安く、工期も短くて済むという特長があります。また、どのようなタイプのマンホールにも適用でき、かつ下水道の機能保持や維持管理にも支障がないというメリットもあるため、液状化現象が懸念される地域を中心に設置が進んでいます。

『フロートレス工法』の特長

消散弁の仕組み
  • 1.
    既設マンホールに短期間で設置可能
    マンホール内部から消散弁を設置するので開削が不要。迅速かつ容易に設置できます。
  • 2.
    安く抑えられた施工費既設のマンホールに対し開削することなく施工できるので、施工費が安く抑えられます。
  • 3.
    さまざまなマンホールに対応可能マンホールの大きさと深さから、消散弁の最適な取付け位置と数量の選定ができます。

構想から4年で『フロートレス工法』を確立

遠心力載荷装置でのシミュレーション

日本工営は、2004年から東京都の下水道の維持管理を担う東京都下水道サービス(株)と、下水道などの管路を製造する日本ヒューム(株)と共同で、この『フロートレス工法』の開発に着手。わたしたちは、中央研究所にある『遠心力載荷装置』を使った大掛かりな実験と、コンピュータによる数値解析シミュレーションを重ねることで、消散弁がもっとも有効に機能する個数や配置、浮上量の関係式を割り出し『フロートレス工法』の実現に貢献しました。

しかし、工法を確立するまでの道のりは決して容易ではありませんでした。開発の初期段階で簡易模型による液状化現象の再現はできたものの、仕様検討に入ると、どの条件でもマンホールが浮上してしまったからです。そこで当初計画よりも早い段階で、遠心力模型実験に切り替え、安定した実験結果が得られるまで、連日実験を重ねた結果、ようやく現象の可視化と理論的に説明可能な計測データの取得に成功。ついにマンホールの浮上を抑制する条件を発見することができました。その後も、消散弁の個数や設置すべき場所がひと目でわかる表を作成するなど工夫を重ね、2008年、『フロートレス工法』は完成の日を迎えたのです。

この技術は、土木学会の平成24年度技術開発賞を受賞し、さらに特許も取得することができました。『フロートレス工法』の開発にあたっては、わたしたちが水力発電所づくりで培った耐震設計や地盤構造に関する豊富な知見に加え、画期的なアイデアに技術的な裏付けを与えるという、コンサルタント会社としての経験が存分に活かされたプロジェクトだったといえるでしょう。

参考資料

研究・開発 複合災害系(土砂管理) 地盤・材料グループ

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