私たちの暮らす地球に多様性豊かな生態系を残すために ~地域社会主体による保全活動の仕組みづくりへの挑戦~

(当社広報誌「こうえい」2012年 秋号より)

恐竜時代には1,000年に1種だった種の絶滅速度が、1975年以降は1年間に約4万種にものぼっていると言われています。人間活動が引き起こす現在の生物の絶滅という問題に対し、国連は2010年に名古屋市で開催したCOP10(生物多様性条約第10回締約国会議)において、2011年からの10年間を「国連生物多様性の10年」とし、各国が目標を定めて解決に取り組むことを取り決めました。今回は、歯止めがかからず深刻化するこの問題に対し、当社グループがブラジルのサバンナ地帯「セラード」で取り組んでいる事例を紹介します。

豊かな自然が残されているジャラポン地域

このままでは約20年で自然がなくなる

農地開発に伴う違法放火で自然植生の消失が進行

「セラード」には世界の約5%の生物種が生息すると言われ、その豊かな生物多様性から一部地域がユネスコの世界遺産に指定されています。しかし、近年の大規模な農地開発によって、自然破壊が進み、生態系は危機的状況にあります。すでに自然植生の60%以上が農地や牧草地に転換され、このままでは2030年にはセラードの自然植生が消滅することが懸念されています。

この問題を解決すべく2010年4月、JICA(国際協力機構)はブラジル環境省との技術協力として「ジャラポン地域生態系コリドープロジェクト」を開始しました。当社はコンサルタントとしてプロジェクト実施を担っており、関係行政府などとともに生態系保全の仕組みづくりに励んでいます。

ジャラポン地域では、本プロジェクト開始以前、連邦およびトカンチンス州政府が5つの自然保護区を設置していましたが、有効に機能せず自然植生の消失はむしろ拡大していました。

本来、生態系の保全は、閉じられた保護区内で動植物を保護するだけでは不十分です。その損失の原因となる農業開発や観光開発なども考慮した総合的な対策を講じ、関係行政府が手を携えて取り組むことが必要です。しかし、ジャラポン地域がまたがる4州15自治体の間では実効的な連携がなく、保護区周辺の自治体に至っては、小規模ゆえ環境破壊を防ぐための基本法令すらない状態にありました。

そこで、本プロジェクトでは、保護区周辺の市街地や農地なども含めた広域の適正な管理と、それらを繋ぎ生態系の連続性を向上させる「生態系コリドー」の導入を目指し、その実現と保全活動の継続性を担保する「仕組みづくり」に力を注いでいます。

"行政間の垣根を越えた連携"と"地域参加"の仕組みをつくる

連邦・州政府の代表者が一堂に会し協定書に署名

ゼロの状態から始まったプロジェクトでしたが、プロジェクトメンバーが関係行政府や地域住民のもとに何度も足を運び協議を重ねた結果、開始から1年半という短い期間の中で、幾つかの画期的な成果を得ています。

そのひとつが、行政間の垣根を取り払う枠組みをつくったことです。2011年9月に、連邦関係機関、トカンチンス州知事および同州関係機関がジャラポンにおいて生態系コリドー導入を推進することに合意し、協定書に署名がなされました。この枠組みの構築は、連邦・州レベルの行政府と保護区の周辺地域を、また関係行政府の内部を横断的に連携させ、同じテーブルの上で長期的・総合的視点をもった保全活動に取り組むことを可能にする大変意義のあるものです。

自治体による独自の保全活動も第一歩を

プロジェクト対象地のジャラポン地域

現場に最も近い位置で保全活動を担う保護区周辺自治体での基盤整備も進んでいます。自治体が保護区を設定したり自然破壊を監視するために必要となる条例の制定や、保全活動計画の策定などを行う環境審議会の設立です。現在4つの自治体で環境条例の施行と環境審議会の設立まで導くことができました。特に、2011年11月にはトカンチンス州で初の自治体保護区システム法が成立し、同法に基づいた新しい市立自然保護区ができました。自治体による主体的な生物多様性の保全活動の第一歩であり、将来的に生態系コリドーの核のひとつとして機能することが期待されます。

今後は2013年4月のプロジェクト終了を見据え、昨年9月に構築した枠組みへの参画者拡大や、自治体における保全活動計画の具体化などが進められます

本プロジェクトは、地域社会が参画して保護区を中心とした生態系を保全する仕組みづくりのケーススタディーです。当社グループは、この先駆的な事例で得た知見を生かし、セラードの他地域はもちろん、世界各地が抱える同様な問題の解決に貢献してまいります。

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