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《工期》1986年4月~1987年3月
《プロジェクト概要》
社内自主研究「ブラシレス発電機用界磁地絡検出装置の開発」
水力発電所の無人制御化が進むにつれ、発電設備のメンテナンスも簡素化しようという動きが高まっていった。発電機の「ブラシレス化」もそのうちのひとつ。そもそも「ブラシ」とは発電機の回転するコイルを電磁石として機能させる上で欠かせない重要部品だが、回転子に直接触れているため摩耗による交換は避けられない。そのため「ブラシ」不要の「ブラシレス発電機」に対するニーズも高まったのだが、問題はこの「ブラシ」が「地絡」と呼ばれる障害の検出にも重要な役割を果たしていることだった。その代替手段として地絡検出用装置や検出用ブラシを取り付ける方式などが実用化されはしたものの、前者は大型かつ複雑で構造上小容量機での使用は困難。また後者は完全ブラシレス化の要求に応えるものではないというのが難点だった。早川は86年にこれら両方式の短所を払拭する新しい地絡検出方式を考案し翌年見事製品化にこぎ着ける。同方式は86年に特許出願、95年に「特許1905250 号」として登録された。 |
ある日、あるお客様からブラシレス発電機における地絡検出の方法について尋ねられました。「日本工営さんはどんなやり方をするの?」。1986年のことでした。
そのころ私は電力機器部で変圧器や発電機の設計に携わっていました。入社8年、30歳の頃のことです。
当時は部署の中で一番若かったこともありましたし、新しいことを吸収することは技術者としての成長につながるという上司の考えもあったのでしょう。電気屋を自認していた私でしたが、この時期には構造機械的な設計や研究開発に近い仕事もずいぶん経験させてもらいましたね。今回ご紹介するお話もそうした仕事のひとつです。
具体的な話をはじめる前に少し説明しておくと、冒頭でお客様が尋ねられた地絡検出の"地絡"というのは、発電の障害となる現象のひとつで、本来絶縁されているはずの機器と対地(地面)が電気的に繋がってしまう状態のことを指します。
絶縁体の劣化などによって一旦この地絡が起こってしまうと、発電機が運転できなくなり発電が止まります。加えて火花が生じたりすれば火災を起こす引き金にもなりかねません。どちらにしても地絡事故は発電所にとっては非常に深刻な事態となります。
ちなみにブラシが"ある"発電機の場合は、まさしくコイルに電流を流すための電気的接点でもある"ブラシ"そのものが、この現象の検出に役立つのです。
しかしブラシレス発電機には文字通り"ブラシ"がありません。さきほどのお客様はこのブラシレス発電機における地絡検出方法において「日本工営ならではの工夫はないか?」と尋ねたわけです。
「日本工営としてどんな方式を採るべきか?」。課長にお客様からの言葉を伝えると「お前が何か考えてみろ」の一言。私に新たな研究テーマが与えられた瞬間でした。
そのころ私は電力機器部で変圧器や発電機の設計に携わっていました。入社8年、30歳の頃のことです。
当時は部署の中で一番若かったこともありましたし、新しいことを吸収することは技術者としての成長につながるという上司の考えもあったのでしょう。電気屋を自認していた私でしたが、この時期には構造機械的な設計や研究開発に近い仕事もずいぶん経験させてもらいましたね。今回ご紹介するお話もそうした仕事のひとつです。
具体的な話をはじめる前に少し説明しておくと、冒頭でお客様が尋ねられた地絡検出の"地絡"というのは、発電の障害となる現象のひとつで、本来絶縁されているはずの機器と対地(地面)が電気的に繋がってしまう状態のことを指します。
絶縁体の劣化などによって一旦この地絡が起こってしまうと、発電機が運転できなくなり発電が止まります。加えて火花が生じたりすれば火災を起こす引き金にもなりかねません。どちらにしても地絡事故は発電所にとっては非常に深刻な事態となります。
ちなみにブラシが"ある"発電機の場合は、まさしくコイルに電流を流すための電気的接点でもある"ブラシ"そのものが、この現象の検出に役立つのです。
しかしブラシレス発電機には文字通り"ブラシ"がありません。さきほどのお客様はこのブラシレス発電機における地絡検出方法において「日本工営ならではの工夫はないか?」と尋ねたわけです。
「日本工営としてどんな方式を採るべきか?」。課長にお客様からの言葉を伝えると「お前が何か考えてみろ」の一言。私に新たな研究テーマが与えられた瞬間でした。

ブラシレス発電機(内部)
日本工営独自の方式を編み出すために
当時他社が採用していた方式は主に2つありました。ひとつは地絡検出のための装置を別途設ける回転トランス方式と、地絡検出のためだけに専用のブラシを取り付けておく方式です。
もちろんどちらも有効に違いないのですが、回転トランス方式の場合は、検出装置が非常に大掛かりで複雑という欠点がありました。これでは発電機によっては取り付けられない場合もあり万全とは言えません。
また検出用ブラシを取り付けておくという方式は、回転トランス方式に比べてコストも掛からず大変有利ではあるものの、ブラシをなくすことでメンテナンスを簡素化するというブラシレス発電機本来の存在意義を考えれば本末転倒な気もします。
日本工営も既に1982年にブラシレス発電機の実用化を済ませ、すでに水力発電所への納入実績もありましたが、回転系の地絡検出についてはまだ決定的な方式を編み出せていない状況でした。
もちろんどちらも有効に違いないのですが、回転トランス方式の場合は、検出装置が非常に大掛かりで複雑という欠点がありました。これでは発電機によっては取り付けられない場合もあり万全とは言えません。
また検出用ブラシを取り付けておくという方式は、回転トランス方式に比べてコストも掛からず大変有利ではあるものの、ブラシをなくすことでメンテナンスを簡素化するというブラシレス発電機本来の存在意義を考えれば本末転倒な気もします。
日本工営も既に1982年にブラシレス発電機の実用化を済ませ、すでに水力発電所への納入実績もありましたが、回転系の地絡検出についてはまだ決定的な方式を編み出せていない状況でした。
ブラシレス発電機(断面図)
任せられたからには良いものが作りたい。
私はまず、発電所で実際に使われていた古い界磁コイルを工場に持ち込み、試験担当者といっしょになって装置表面にカーボン(炭素)の粉を振りかけ、どれだけ電流を流すと火花が生じるかという実験を繰り返すことから始めることにしました。
その結果わかったのは、数百ミリアンペアという非常に小さな値でも、地絡の危険領域に入ってしまうということ。
これは本体を流れる電流の1/1,000程度しかない非常に小さな電流です。この微弱な電流を確実に検出するにはどうしたらいいだろうか? ひとり考え続けた末、ふと頭に浮かんだのは、電流が流れる際に発生する磁束(磁力線の集まり)の変化を捉えてやればブラシを使わなくても地絡を検出できるのではないかというアイデアでした。
その結果わかったのは、数百ミリアンペアという非常に小さな値でも、地絡の危険領域に入ってしまうということ。
これは本体を流れる電流の1/1,000程度しかない非常に小さな電流です。この微弱な電流を確実に検出するにはどうしたらいいだろうか? ひとり考え続けた末、ふと頭に浮かんだのは、電流が流れる際に発生する磁束(磁力線の集まり)の変化を捉えてやればブラシを使わなくても地絡を検出できるのではないかというアイデアでした。
ブラシレス発電機(外部)
周囲の助力で完全ブラシレスを達成
新しいことにチャレンジするとき大切なのは、適切な実験で正しいデータをとること、そしてひとりでじっくり考える時間を作ることなのは間違いありません。でもそれだけでは十分とは言えないでしょうね。この経験で感じたのは周囲の人とディスカッションを重ねることの大切さでした。
たとえば、この仕事を任せてくれた課長に自分のアイデアを話すと「磁束の変化が1,000倍のところから、1/1,000の電流を取り出そうとしても難しい。引き算の発想も大事だぞ」と言われたことも考えを深めるヒントになりました。また、当時社内にいたアナログ回路設計の"大家"と呼ばれる人のもとに相談に行ったときは「何か信号が出ているなら回路のほうでもなんとかしてやる」と勇気づけられ、疑問を見つけては何度も話を訊きに行き討論を重ねました。
こうしたディスカッションがなければ、たったひとりでこの課題を乗り越えることは難しかったでしょうね。
最終的には、"転流サージ"という、ダイオードがONからOFFになるときに発生する現象を捉えるために使われている別の故障検出装置をヒントに、地絡電流によって生じた磁束の変化をあらかじめ固定子側に巻いておいた検出用コイルで捉える方法で完全ブラシレス化を達成することができました。
発電機のサイズも従来のものより1割程度大きいくらいに納められたことも、回転トランス方式に優る特長として今でもお客様から高い評価を頂いています。
ただ微弱な地絡電流を正確に捉えるには課長のいう"引き算の発想"、つまり本体を流れる電流の影響を計算上ゼロにするためのコイルの巻き方、配置、個数、つなぎ方には工夫と試行錯誤が必要でした。
でも苦労した分、でき上がったときは本当にうれしかったのをよく覚えています。当たり前かもしれませんが、モノ作りにおいては何よりも諦めない気持ちが大事なんですね。
いま振り返ってみると、この経験は自分にとって仕事の幅が広がるターニングポイントでもあったし、達成感の大きな仕事でもあったという意味で非常に心に残るプロジェクトでした。
たとえば、この仕事を任せてくれた課長に自分のアイデアを話すと「磁束の変化が1,000倍のところから、1/1,000の電流を取り出そうとしても難しい。引き算の発想も大事だぞ」と言われたことも考えを深めるヒントになりました。また、当時社内にいたアナログ回路設計の"大家"と呼ばれる人のもとに相談に行ったときは「何か信号が出ているなら回路のほうでもなんとかしてやる」と勇気づけられ、疑問を見つけては何度も話を訊きに行き討論を重ねました。
こうしたディスカッションがなければ、たったひとりでこの課題を乗り越えることは難しかったでしょうね。
最終的には、"転流サージ"という、ダイオードがONからOFFになるときに発生する現象を捉えるために使われている別の故障検出装置をヒントに、地絡電流によって生じた磁束の変化をあらかじめ固定子側に巻いておいた検出用コイルで捉える方法で完全ブラシレス化を達成することができました。
発電機のサイズも従来のものより1割程度大きいくらいに納められたことも、回転トランス方式に優る特長として今でもお客様から高い評価を頂いています。
ただ微弱な地絡電流を正確に捉えるには課長のいう"引き算の発想"、つまり本体を流れる電流の影響を計算上ゼロにするためのコイルの巻き方、配置、個数、つなぎ方には工夫と試行錯誤が必要でした。
でも苦労した分、でき上がったときは本当にうれしかったのをよく覚えています。当たり前かもしれませんが、モノ作りにおいては何よりも諦めない気持ちが大事なんですね。
いま振り返ってみると、この経験は自分にとって仕事の幅が広がるターニングポイントでもあったし、達成感の大きな仕事でもあったという意味で非常に心に残るプロジェクトでした。
2011年11月 8日

